人は生きる限りひとりだよ、でも音楽がある

主に好きなミュージシャンの紹介です。

クジラ夜の街は絶対に売れると断言できます

今日はクジラ夜の街というバンドの、ワンマンツアーファイナル東京公演がYouTubeで無料配信されていたので、それを視聴してました。太っ腹すぎないか。

クジラ夜の街は、結成6年目で今年メジャーデビューしたばかりの期待の若手バンドなのだが、めちゃくちゃ売れそうな雰囲気をプンプンさせている。

まずは一曲、「時間飛行少女」を聴いてほしい。

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上質なギターロック。純粋にサウンドがかっこいい。ギターのフレーズもセンスにあふれているし、ベースもサウンドをまとめ上げるのに一役買っている。そして、ドラム・秦愛翔さんは若手でも相当上位に来るドラマーではないだろうか。私がドラムを叩くので自然とそっちに耳が行ってしまうのだけれど、ドラムの技術力、手数、ビート選び、フィルやアクセントの曲とのマッチ度合い、どれも本当に高い水準にあると思う。

詞のセンスも凄い。「もういくつ寝ると」からこんなにおしゃれな歌詞を書けるものだろうか。昔から抱えてきた夢と現在の自分を対比を歌い、それでも夢を捨てないでという応援を、「懐かしい未来へ行くのです」と歌い上げるのは、すごい表現力だと思う。「タイムトラベルガール」と「パラレルワールドがある」にみられるような、要所要所で踏まれた韻も心地よい。

ボーカル・宮崎一晴さんの書く歌詞は、ファンタジックな物語に、聴き手の心を動かすメッセージを載せているが、その押しつけがましくないメッセージ性と難解過ぎない物語性の塩梅が絶妙だ。

さて、曲の良さや技術力の高さは伝わったと思うのだけれど、彼らが「売れる」と断言できるのは、それのみが理由ではない。いい曲を書いても大衆に認知されないまま時が過ぎているバンドがたくさんある中で、しばらくのうちに彼らはそんなに音楽に興味のない人でも知っているようなバンドになると私が思う理由は、次の動画を見てもらえると伝わるのではないか。

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この「あばよ大泥棒」のライブ映像を見ていただいたらわかるかと思うのだが、フロントマン・宮崎一晴さんが、かっこつけることに躊躇がない。私のようなひねくれものが見ると、若干恥ずかしさを覚えるくらいに全力でフロントマンをやっている。

SEKAI NO OWARI然り、Mrs. GREEN APPLE然り、大売れするバンドはみなこのような特徴を持っていると思う。殆どのバンドでフロントマンにはかっこよさが求められると思うのだけど、少しの照れも見せずにひたすらにクサいまでにかっこつけられる奴がフロントマンを務められるバンドは、めちゃくちゃ売れる。だってめっちゃかっこいいから。曲もいい、フロントマンもかっこいい、そんなクジラ夜の街が売れるのは当然だ。

そんなクジラ夜の街は、最近曲の振れ幅も増やしてきて、ますます売れる準備ができてきたように感じる。この「BOOGIE MAN RADIO」を初めて聴いた時に、こんな曲も書けるのか、と驚いた。

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ファンタジックな世界観は保ちつつ、温かみのあるキラキラしたサウンドのこれまでの路線とは違い、切れ味のあるリードギターのフレーズの良さが際立つ、かっこよさに振り切った曲になっている。怪しげな歌詞もいい。オッドタクシーの木下麦さんが作ったPVも素敵。

年齢でどうこう言うのは失礼かもしれないが、2001年生まれの若手の彼らが、ここまで器用に楽曲を作れるというのは、本当に天才としか言いようがない。

最後に、彼らのファンタジー節が存分に発揮された曲「ラフマジック」を紹介したい。

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グッドラック」から繰り返し踏まれる韻、優しいボーカルの歌声に重なるコーラスが心地よい。AメロBメロサビのような単純な曲の構成になっていないのに、すんなり耳に入ってくる。ドラムのスネアの使い方が好き。ラストのギターフレーズもかっこいい。

恋人との別れを歌ったストーリーとMVとの相乗効果も凄い。

クジラ夜の街は、デカいタイアップ一つ掴めば、大衆に知れ渡り、多分アリーナとかでライブする人たちになると思います。まだそれなりの大きさのライブハウスで観られるうちに、ライブに行きたいものです。既にチケットは即完売だったりするらしいですが。

 

(追記:照れ屋でかっこつけきれないフロントマンのバンドも好きです。)

インドア系なので、Yunomiさんに憧れるんです

TikTokの効果なのか、はたまた海外人気もあるからなのか、Yunomi & nicamoq の「インドア系ならトラックメイカ」の動画って3,588万回も再生されているんですね。

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かわいい声とかわいいサウンドに、どこか脱力感のあるノれるリリック。個人的に、Yunomiさんとnicamoqさんのコンビは無敵だと思う。

DJ、トラックメイカーであるYunomiさんの曲は、普段EDMに慣れ親しんでいない人の耳にも、するっと馴染んでいくメロディやリフのポップさが素敵。彼の曲の多くはいわゆるFuture Bassに分類されるが、このジャンルはEDMの中でも、ベースやビート、コードの圧迫感がなくお洒落で踊れるサウンドだと感じる。

Yunomiさんの曲は、皆さんどこかで耳にしているのではないだろうか。例えば、アニメ「トニカクカワイイ」のOP「恋のうた(feat.由崎司)」も、Yunomiさんの曲である。

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アニメのストーリーにマッチしつつも韻の踏み方が心地よいリリック、和のテイストを存分に加えたトラック。サビは平坦なメロディで進行させビートで盛り上げ、その後のシンセメロディを聴かせる構成。Yunomiさんにしか作れないような曲ではないだろうか。また、こんな難しい曲を歌いこなした由崎司(CV. 鬼頭明里)さんも凄い。

Yunomiさんの曲には、「Yunomi節」とでも言うべき要素があり、例えば和テイストのサウンド、かわいくてポップなメロディというのがそれに該当すると思うのだけれど、最近は他の面も見せてくれるようになり、彼の技術力の高さが伺い知れる場面が増えてきた気がする。

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VTuberの宝鐘マリンさんに提供したこの「Unison」は、パーカッショナブルなベースとビート、後ろの方で微かに鳴る最低限のシンセサイザーというトラックで構成されている。しかし、シンプルなトラックと効果的なコーラスの使い方が、マリン船長の表現力豊かな歌声を強調している。

歌メロの音の区切り方も印象的で、拍子の感覚をずらすような抑揚のつけ方は、歌い手も混乱しそうであるけれど、よくこんなメロディを考えつくなと感心させられる。

歌詞も、マリン船長の設定によく則っていることに加え、「ねっちゅうして」など、マリン船長のファン層どまんなかの人々の妄想を掻き立てる、絶妙なリリックになっている。

YunomiさんがVtuberに提供している楽曲は、先ほど述べた「Yunomi節」が抑えられ、どこか実験的なものが多い気がする。次の周防パトラさんへの提供楽曲の、「イミグレーション」も、攻めた楽曲になっている。

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シンプルなトラックという点では「Unison」と共通するのだが、こちらの楽曲では執拗なまでのウィスパーボイスがベースラインやビートと合わさり、一つの楽器としてトラックを構成しているような印象を受ける。

また、元祖VTuberと言えば、のキズナアイさんも、Yunomiさんの楽曲提供を受けている。

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こちら「Future Base」は、本当に上質なFuture Bassとしてかっこいい楽曲である。和テイストやKawaiiという意味での「Yunomi節」はないが、それでもYunomiさんが作った楽曲だということがどこかで感じられる。すごい。

最後に、「Yunomi節」全開で、これからの夏にぴったりの楽曲を挙げておきたい。

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女優の福原遥さんが歌っているこの「箱庭のサマー」は、彼女の透き通った歌声と、明るい夏の情景、淡い恋模様が本当にマッチしている。その澄み渡るような青春の要素と、EDMの要素をこれほどまでにうまく組み合わせるのは、Yunomiさんにしかできない芸当だと思う。

アイドルグループCY8ERとその前身であるBPM15Qへの提供楽曲や、電音部への提供楽曲、アンテナガールさんとのコラボ曲、アーバンギャルド「ワンピース心中」のRemixなど、Yunomiさんの曲で紹介したいものは他にもたくさんあるのですが、長くなりすぎるのでこの辺にしときます。

インドア系の皆さん、よかったら漁ってみてください。

 

(蛇足:過去にYunomiさんがTwitterで自分の作曲方法を解説していて、それを真似て私もトラックメイカーになりたいなと思っていたら、何もせず数年が経ってました。)

柴田聡子さんが京都に来るらしんですが

柴田聡子さんが6月に私の住んでいる京都に来るらしいんですが、キャッチアップが遅れて知った頃にはもうチケット売切れてました。

柴田聡子さん。少し毒のある歌詞とポップなメロディ、優しい歌声が魅力的なシンガーソングライターだ。

一番有名な曲は、「後悔」だろうか。

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イントロのベースラインからすでに踊りだしそうな感じ。コーラスもウキウキとした空気を盛り上げてくれている。歌詞の描く情景もなんだが色彩豊か。

しかしながら、この曲は紛れもない「後悔」の曲だ。この曲の主人公は、思い込み強めな、拗らせ女子。歌われている「君」との関係は、少しも近いものではなく、一方的に意識しているに過ぎないことが節々から伝わる。それでも、誰かへの恋を意識した時には、なんでもキラキラして見える。思い込みに過ぎないんだけど、きっとうまくいくと根拠なく思える。

そして、最後の歌詞の段階で、実際にはこの恋が殆どうまくいかないだろうことに見当がつく。

ああ、抱きしめていれば
抱きしめ合ってれば
自然と本気に
抱きしめてくれたら
抱きしめていれば
抱きしめ合ってれば
自然と本気に
抱きしめてくれたら

自分から抱きしめるほどの勇気というか、思い切りはこの主人公にはないのだ。「君」は、きっと他の誰かと付き合い、主人公にとってこの浮かれていた時間は、後悔になる。その毒が、ポップな曲調に乗せられている。

初期の柴田聡子さんの曲は、特に毒が強かった思う。私が一番好きな曲は、「カープファンの子」だ。

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2012年頃、カープ女子という言葉が流行していた。野球好きの男どもに気いられるために、それまでたいして野球に興味のなかった女性もカープファンを自称しだしていた(偏見)。

そして、そんなにわかカープファンになるような女性は、流行りにはなんでも乗っかるので、何の楽器もできないくせに、バンドを組んだりしてみるのだ。もちろん、楽器演奏者は知り合いの男が集めてくれ、ちやほやされながらたいして歌もうまくないのにボーカルを務めたりするのだ(偏見)。

そんな「うまくやってる」「かわいい」女性たちに対する毒が直球で歌詞になっている。彼らへのネガティブな感情を、「もっともっとひどいこと考えておかなくちゃ」とお茶目に表現している。

最近の曲では、少し毒の角が取れて丸くなっている。

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雑感」は、バンド演奏のバージョンもあり、そちらも素敵だ。アコースティック版では、柴田聡子さんの優しい声が染みてくるし、シンプルにギターがうまいことがよくわかる。

曲名の通り、とりとめのない雑感を並べたような歌詞になっている。なのだけれど、関連しないはずの言葉の一つ一つが、はっきりと存在感を放っている。これぞ詩人といった感じだ。

一番伝えたいことは、最後の一節なのだろう。

行けるようになったから行きたいとこに来てみただけです
来てみただけです
来てみただけです

特に強いメッセージを込めたつもりもなく、ただの感想みたいなものなのだろうけど、聴き手の肩の力をすっと抜かせてくれるような、優しい歌詞だと思う。

そんな柴田聡子さんは、新潟発のアイドル、RYUTistの「公式お姉ちゃん」も務めているらしく、彼女たちに楽曲も提供しているのだが、これがまた素晴らしい。

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ポップな曲調がアイドルソングにピッタリである。音の語尾を上げるようなメロディとコーラスで盛り上げ、サビにつなげる構成がうまい。途中のサビと異なるメロディの最後の大サビでで盛り上げた後、「ヘイ!」という掛け声で締めるところも存分にかわいらしい。歌詞も柴田聡子さんらしい、情景を丁寧に描写し、最後に素敵な結末があるような、ストーリー性のある歌詞になっている。

この「ナイスポーズ」以外にも、「オーロラ」という曲を柴田聡子さんがRYUTistに書いており、それもいいので気になった方は聴いてみてほしい。

柴田聡子さん、今回はチケット取れなかったので、また今度京都、もしくは大阪あたりに来てください。いや東京にも行きますけれども。よしなに。

 

(追記:RYUTistの他の曲の作曲者も、なんだか素敵なメンツなので、ぜひ彼女達にもハマってみてください。)

夏は、ハヌマーン!

皆さんには夏になったらよく聴く曲はあるだろうか。ナンバーガール「透明少女」、フジファブリック若者のすべて」辺りか、もしくはもっとメジャーな流行歌だろうか。

そういった曲もいいのだけれど、もしあなたが背中を丸めて極力日陰を歩きながら生きている私の同類なら、ぜひ今年の夏をハヌマーンで決めてみてほしい。

ハヌマーンの夏の曲といえば、「イカラさんが通る」だ。

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いわゆる「オレ押さえ」的な、セブンスを多用したギターのサウンドと、ビートのはっきりしたドラム、厚みのあるベースの音が、攻撃的なのにどこか哀愁を感じさせる。これが夏にぴったりだ。

歌い出しから2節目くらいの「世界の終わりに君ならどんな音楽聴く」という歌詞、この時点で共感できる人とできない人に大別されるだろう。最近気づいたことなのだけれど、世の中で、音楽に救いを求めている人はそう多くない。世界の終わりの話をする時に、好きな食べ物の話や会いたい人の話をする人は多いだろうが、どんな音楽を聴きたいかを話し出すこの歌の主人公は、どこか大衆からズレた人間だ。

この歌は、(おそらく)失恋の歌だ。「四方に舞う」話も「どこにでもある奇抜な色」のスカートも、この話の主人公と「彼女」との感覚が合っていないだろうことを思わせる。極め付けは、「全ては、そう僕の早計」である。主人公が彼女に抱いた感情、淡い期待のようなものは、ただの主人公の思い込みに過ぎなかったのだ。

そして、サビ終わりの「彼女は僕の知らない音楽に夢中さ」だ。音楽が全ての中心にある主人公にとって、彼女と自分の埋まらない距離を表現する最大限の言葉がこれなのだ。終盤に急に出てくる「眼球の裏で不意に夏の感じ」という表現も、夏に浮かれた街の明るく賑やかな喧騒と、自分の切ない感情を対比させる。

ハヌマーンの歌詞は、難解(なのでつい細かく語ってしまったが)な一方で、刺さる人間にとにかく刺さる。難しい表現で、剥き出しの屈折した感情をぶつけてくる。

夏におすすめ、と言っているけれど、彼らの曲には「Don’t Summer」という曲もある。キラキラした夏から逃げ出したい人はぜひこちらも聞いてほしい。

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どちらの曲にしても、作詞を手掛けるボーカルの山田亮一さんにとっての夏は、決して手に入ることのない「君」や「彼女」と、浮かれた世の中と、そしてそれらへの羨望とフラストレーションを溜め込んだ自分との対比が、色濃く浮き彫りにされる季節なのだろう。

さて、冒頭に挙げた「若者のすべて」だが、ハヌマーンにも「若者のすべて」という曲がある。

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駅の飛び込み自殺の風景から始まるこの歌には、若者の焦燥感がむせかえるほどに充満している。幼い頃に抱いた未来への期待やその頃の幸せな記憶と、どうにもならない現在を対比して死にたいと思ったことがある人間なら、きっと共感できるだろう。

時間は過ぎてくその現実に
眼球をいつまでそらすつもりか
逢えない誰かを想うとは
失念の念を贈ることさ

最後の方に出てくるこの歌詞が、胸に突き刺さる。何かになれなかった自分を受け入れ、歩き出さなければならない。もう逢えなくなってしまった人、逢いたかった人を心の片隅に押しやり、明日を見据えなければならない(と、私は解釈している)。

ハヌマーンは2012年に解散し、現在ボーカルの山田亮一さんはバスマザーズなどのバンドで活動を続けている。バスマザーズも素敵なバンドなのだが、やはり青年期の鬱屈とした感情を爆発させているハヌマーンが今の私には一番突き刺さってくる。

最後に、「Fever Believer Feedback」を紹介する。

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ど頭から楽器隊がそれぞれ暴れ散らかしており、この勢い、衝動、なんと心地よいことか。私はパチンコをやらないので、歌詞の細部まではわからないのだが、ギャンブル場のような場所に行った時に、「あぁ、こいつらクズなんだなぁ」と周囲の人間を見ながら思いつつ、自分がその一員であることを自覚させられる感覚をうまく表現していると思う。

人生上手くいかねぇなぁと思う人、今年の夏は一緒にハヌマーンでキメていきませんか。あまりいい夏にはならないような気がするけれど。

 

(蛇足:ベースの大久保 恵理さんのバンド、マイミーンズもいいですよ。方向性は全然違いますが。)

Lucky Kilimanjaroが今私を一番踊らせてくれる

家で踊れてる?

今日は大阪・Zepp NambaにてLucky Kilimanjaroのライブを観に聴きに行ってくる。 

皆さんはLucky Kilimanjaroをご存じだろうか。

シンセサイザーを用いたダンス・ミュージックが魅力的な男女6人組のバンドである。都会の大学の軽音サークルにて結成されただけあり、なんだかおしゃれでキラキラした印象を与えてくれ、自分のような卑屈な人間はアー写を見るだけで当てられるような感じもするんだけれど、そんな陰湿な私のことも彼らの音楽は包み込み、踊りに向かわせてくれる。

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孤独に闘う人間を励ましてくれる歌詞、パーカッションを効果的に使用したサウンドが、それこそ深夜に一人歩いてるときなどに聴くと、勝手に前へと足を運んでくれる。

ボーカル・熊木幸丸さんの書く歌詞は、ストレートに聴き手の心に寄り添ってくれる一方で、特にサビでは丁寧に韻を踏み、ダンサブルなサウンドに一役買っている。すごい。

おそらく最も世間に知られている曲は、この「HOUSE」だろう(YouTubeの再生回数的にも)。

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出だしからご機嫌なパーカッションとシンセベースが、とにかく聴いている人を踊らせようとしてくる。スネアで盛り上げてから、歌ではなくシンセによるメロディを聴かせてくるのも、まるでDJの演奏を流しているかのようで、家をクラブに見立てて踊れるような構成になっている。ハウス(=家)とハウス・ミュージックがかけられているのもおしゃれ。

私のイチオシ楽曲は、「春はもうすぐそこ」だ。

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この楽曲も、歌サビの間は楽器隊を抑え、その後に躍動感のあるリズム隊とどこかオリエンタルな感じを受けるシンセ・メロディを聴かせる構成で、冬を越えた私たちを活動的にさせてくれる。

歌詞もいい。アラサー男性の私でさえも、まるで女子学生になったかのような気分にさせてくれ、ウキウキするような恋の予感を思わせてくれる。春を「瑞々しく実る」と表現できる感性は素敵だ。MVの色彩感もこのような気持ちを高めるものになっている。

作曲はLucky Kilimanjaro名義になっているが、主としてはボーカル・熊木幸丸さんが基本形を提示してそれをみんなでアレンジしているものと思われる。彼の類まれな作曲センスを考えると、ダンス・ミュージック、ハウス・ミュージックに限らず、もっとアップ・テンポな曲やロック調の曲など、わかりやすくウケそうな楽曲も書けそうな気がする。しかし、彼または彼らのダンス・ミュージックへのこだわりは相当なもので、彼らの楽曲の殆どはテンポも曲の構成も、あくまで聴き手が「踊れる」ことを念頭に置いて作られていると感じる。この一貫したスタンス、かっこいい。

最近の楽曲の「またね」もよい。

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「春はもうすぐそこ」では新しい感情が歌われていたのに対し、この楽曲では春の別れが描かれている。一見ミスマッチなダンサブルなサウンドと別れの切なさが、シンセサイザーの絶妙な音色によって見事にまとめ上げられている。最後には前向きになれるような、未来を感じる歌詞も魅力的だ。

定期的に流行する、4つ打ちのダンスビートを多用したロックもいいけれど、自分を本当に踊らせてくれるのは、Lucky Kilimanjaroのどこかチルく、心を底の方から踊りたくさせてくれる音楽だと思う。

少し落ち込んでしまうようなことがあったときは、彼らの曲を聴きながら、肩を揺らしてみると、前を向いて歩いていけるような気がするよ。

 

(追記:ライブめっちゃよかった。「君が踊りだすのを待ってる」がラストに来るの最高だった。)

もしも赤い公園のライブにもう一度行けるなら

赤い公園は、コンポーザーでありギタリストの津野米咲さんの急逝をきっかけに、2021年に解散したバンドだ。

私が彼女達の存在をちゃんと認知したのは、剛力彩芽さんが主役を務めた深夜ドラマ、「レンタルの恋」の主題歌だった「闇夜に提灯」からだったと思う(余談だが、深夜ドラマの主題歌には素敵な出会いが多い。いつかそれをまとめた記事も書きたいものだ)。

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初っ端からギターに絡まるベースとドラムのコンビネーション、パワフルなボーカルに心を掴まれる。「明けない果てないようなミッドナイト」「大暗中、Want You」と歌詞も韻を踏みまくりで心地よい。

その後、私が本格的に彼女達にハマり出したのは、ボーカルの佐藤千明さんが脱退し、それに変わって元アイドルネッサンス石野理子さんが加入して発表された、「Highway Cabriolet」を聴いてからである。

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おしゃれでどこか切ない曲調に、石野理子さんのボーカルが本当にマッチしている。ギター、ベース、ドラムのフレーズもシンプルだけど非常にかっこいい。よく考えられて作られた曲だと思う。PVも可愛い。

何より、歌詞が秀逸で、出だしの「I Love Youって空耳してもいいかな」の時点で、どのような関係性の二人なのか、これを明示的に描かずに見事に示している。甘酸っぱいようで、やはりどこか切ない歌詞が曲調とも完璧に合っている。

津野米咲さんの書く曲・歌詞はとても素晴らしい。音楽的にもよく考えられているであろうことが伝わるし(自分の音楽的素養のなさで100%それを理解できていないのが悔やまれる)、歌詞は直接的でないのに鮮やかに情景を描写して共感を誘ってくれる。興味がある方は他の曲も漁って欲しい。

津野米咲さんの他アーティストへの提供作品では、SMAPJoy!!」やモーニング娘。泡沫サタデーナイト!」などがある。アイドルへの提供楽曲は、アイドルソングとして曲調も歌詞も明るく前向きになれるように作られている。個人的には、ドラマ「賭ケグルイ」の主題歌であった「一か八か」がドラマのストーリーをよく捉えていてかっこよくて好き。

最後に、赤い公園で好きな曲を2曲おすすめしたい。1曲目は鈴木愛理さんとのコラボレーション楽曲である「光の方へ」である。

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鈴木愛理さんの可愛らしさを存分に捉えつつ、楽器隊はとても攻撃的な動きをしているのに、見事にそれが調和している。すごい。

2曲目は、「カメレオン」である。

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スネア16分と掛け声での出だしと、イントロのベースラインのうねりが好き。サビのボーカルの伸びのある歌声も良い。歌詞もアツい。ただ励ましてくれるだけじゃない、アツい歌詞が好き。

現在、ドラムの歌川菜穂さんはTHE 2というバンドで、ベースの藤本ひかりさんは君島大空トリオなどで、石野理子さんと佐藤千明さんもボーカルとして各所で活動を続けており、それぞれの活躍も追っていて楽しい。

ただ、やはり赤い公園としての活動をもっと見たかったし、津野米咲さんの書いた赤い公園を新曲が聴きたい。ハマったタイミングが遅く、ライブには結局2回しか行けなかった。2回行けただけラッキーで、素敵な思い出をありがとうという気持ちなのだけれど、もしもボックスが一度だけ使えるなら、赤い公園のライブにもう一度行けるように電話をかけると思う。

 

(蛇足:ベースの藤本ひかりさんのTwitterがクスッときて可愛くて好きです。)